近年、視力矯正手術が注目を浴びており、特にICL(眼内レンズ挿入術)は角膜を削らずに視力を回復する人気の方法です。眼内にレンズを挿入し、角膜の機能を補うことで、術後の回復が早く、長期的な視力維持も可能です。ただし、高い費用や合併症のリスクも考慮すべき点です。今回はICLのメリットとデメリットをご紹介します。
ICLとは?視力回復手術の基本を解説

ICL(Implantable Contact Lens)とは、目の中にコンタクトレンズのような人工レンズを挿入する手術のことです。ICLは近視や乱視を矯正するために使用され、視力を回復させる効果があります。ちなみにICLは、「眼内コンタクトレンズ(後房型有水晶体眼内レンズ)」や「有水晶体眼内レンズ」、あるいは「フェイキックIOL」とも呼ばれることもあります。
ICLには虹彩の前に挿入される「前房型」と、虹彩の後ろに配置される「後房型」の2つがあります。前房型はまれにではありますが、角膜が濁る「水疱性角膜症」を引き起こして角膜移植が必要な合併症の可能性があります。そのため、日本国内ではほんのわずかしか行われておらず、近年は主に後房型のICLが主流となっています。後房型のICLは厚生労働省からの認可も取得しているため、安心して施術を受けることができます。
ICL手術の仕組みとは?
ICL(後房型)手術では、眼球の中に特殊な人工レンズを挿入します。このレンズは虹彩と水晶体の間に置かれ、光の屈折を調整して視力を改善します。レーシックは角膜を削って視力を調整しますが、ICLは角膜を削るのではなく、レンズを挿入して視力回復をするのが特徴です。
ICL手術の適応症とは?
ICL手術は近視や乱視が強い方に適しています。また、角膜が薄い方やレーシック手術ができない方にも適しています。ICLの適応年齢は18歳以上とされており、未成年の場合は親の同意が必要です。近視は多くの場合、小さい頃から始まって20代半ばにはその進行が止まるとされています。もちろん個人差はありますが、18歳未満の場合はまだまだ成長過程で、視力が回復する可能性も含め視力が安定しないからです。
逆に40代や50代の場合、老眼を発症している可能性が考えられます。その場合、ICL手術で近視が治ってメガネやコンタクトが不要になったとしても、老眼鏡をかけないと近くが見えにくくなる可能性があります。メガネやコンタクトが煩わしくて手術を考えている場合は、結局老眼鏡をかけることになるので本末転倒になるリスクがあります。
ただし、最近では「遠近両用眼内コンタクトレンズ」という老眼も治療できる老眼用ICLも登場しています。老眼の心配のある方は、検討してみるといいでしょう。
ICL手術の流れとは?
ICL手術の一般的な流れは以下の通りです。
- 検査予約
- 適応検査
- 術前検査
- 手術
- 術後検査
- 定期健診
まずは病院に連絡して、検査予約をする必要があります。そして適応検査を受けます。
適応検査とは、ICL治療が行える「眼」かどうかの検査です。病院によって異なりますが、目安として検査は10種類以上あり、合計2時間~2時間半くらいはかかります。
その後、術前検査でレンズなどを決めて手術となります。手術は基本的に両眼でだいたい30分くらいで終わります。こうやって全体の流れを見ると数日で終わりそうに見えますが、実際には2~3ヶ月かかることもあります。そもそも検査を受けるにあたって、コンタクトレンズを装用中の場合は2~3週間以上前から装用を中止しなければいけない場合があります。
また、自分に合ったレンズを選んでからレンズが届くまでにかなりの日数がかかる場合があります。そのため、手術を受けようと考えているのであれば、ある程度の日数はかかるので注意が必要です。
ICLのレンズの素材は?

日本国内では、アメリカ、イギリス、スイス製の3種類のICLレンズが販売されており、これらのレンズにはそれぞれ独自の特徴があります。素材や性能に違いがある3つのICLレンズですが、手術を検討する方にとって、どのレンズを選ぶかはとても重要な問題です。
歴史をたどってみると、最初のICLレンズは「EVO+ICLレンズ(アメリカ製)」で、2010年に国内唯一の眼内コンタクトレンズとして薬事承認を得て、2014年に厚生労働省から認可を受けています。当初はアクリル素材では柔軟なレンズが製造できなかったため、コラマー素材が採用されました。コラマーは、コラーゲンとHEMA(ハイドロキシエチルメタクリエート)を結合させた革新的な素材で、眼内に挿入しても異物と認識されにくく、高い生体適合性を持つ優れた素材です。このコラマーの柔軟性により、ICLレンズの開発が可能となったのです。
その後、EyeOL(アイオーエル)社(イギリス)が2014年に高水分含有の「ハイブリッド・ハイドロフィリックアクリル」を使用したICLレンズを導入し、アクリル素材で大きな進展がありました。スイスのWEYEZER社の「アイクリルレンズ」も同様の素材を使用し、アクリル製ICLレンズが一般的となりました。
この新素材はタンパク質などの汚れが付着しにくく、安定した視機能の維持が確認されています。以前はコラマー素材が特徴的でしたが、現在は素材の安全性が実証済みであり、アクリル素材が主流となっています。そして気になる寿命ですが、人間よりもその寿命は長いと言われているため、一度入れたら基本的には一生そのまま使い続けることができます。
ICLのメリットとは?

ICL手術には以下のようなメリットがあります。
レーシックが受けられない強度な近視でも視力回復が期待できる
日本眼科学会のガイドラインによると、-6.00D以上の強度近視はレーシック慎重適応、-10.00Dを超える場合は禁止とされています。ちなみに、遠視、乱視矯正については6.00Dまでが限界と定められています。その他、角膜が極端に薄い人や軽度の円錐角膜などの状態の方もレーシックを受けることができません。
しかしICL手術は、上記のようなレーシックが適用されなかった強度近視(-6.0D以上)、薄い角膜の状態(十分な削り幅がない場合)、軽度円錐角膜(慎重な適応)の方々でも受けることができます。ICLの適用範囲は国内で-3.0Dから-18.0Dまでとされています(-15.0Dを超える強度近視の場合、慎重な適応となります)。レーシックに比べるとかなり多くの人が受けることができます。
術後の視力の安定
レーシックでは、術後に視力が徐々に落ちてくる人も多く、再度レーシックを受ける人もいます。ただ、角膜の状態によっては再度レーシックを受けることができない人もいます。レーシックを受けた後に視力が落ちてくるのは、角膜の形状変化が原因とされています。
一方、ICLの場合、手術の際に角膜を削ることはありません。角膜の形状変化がないため、視力が長期的に安定します。
眼表面の組織を傷つけないため安全性が高い
ICL手術はレーシックと異なり、角膜を削ることなく行われるため、手術の安全性が高いと言われています。また、手術後の回復も比較的スムーズです。
また、レーシックだと一度手術を受けてしまうと削った角膜を元に戻すことはできません。しかしICLの場合、レンズを取り出せば元に戻りますし、見えにくくなった場合はレンズを入れ替えるだけで済みます。レーシックに比べると目への負担が大きく軽減されるのも安心ですね。
ICLのデメリットとは?
ICL手術はとても良いものに見えます。しかし当然ですが、ICLにも以下のようなデメリットがあります。
手術には後遺症や合併症などのリスクが伴う
ICL手術は「内眼手術」です。内眼手術とは、眼球の内部で行われる手術を指し、ICLの他に白内障手術、緑内障手術、網膜硝子体手術などが含まれます。内眼手術には、低確率ですが眼内炎などの深刻な合併症特有のリスクが存在します。ちなみに眼内炎は手術後に傷口から微生物が侵入し、視力の低下や激しい痛みを引き起こす可能性があります。
ICLの代表的なリスクは以下となります。
- ハロー・グレア(夜間に光が目に入った際、眩しく感じたりぼやけて見える現象)
- 感染症
- 白内障
- 過矯正・低矯正(レンズの大きさや度数が合わない)
ハロー・グレアについては、多くの方が術後数日で治まるようです。また、白内障については最近のレンズの進化によってかなり発症リスクは下がっています。ICLは比較的安全な手術と言われていますが、このようなリスクがあるということは覚えておきましょう。
費用が高い
ICL手術は基本的に自由診療(保険適用外)です。手術費用には医療保険が適用されない場合もあるため、費用面を考慮する必要があります。
費用については一概には言えませんが、45~80万円くらいが一番多いようです。もちろん使うレンズや病院によって金額は異なりますが、レーシックに比べると高額になります。
手術をすることによって術後はコンタクトレンズや眼鏡のない生活を送ることができると考えた場合、その金額に見合っているかどうかでしょう。私は個人的には決して高いとは思いません。私は強度の近視と乱視なので、ワンデーのコンタクトもかなり高いです。それにプラスして日々の生活でコンタクトや眼鏡が要らなくなると思えば、むしろ安いと思います。これは価値観の違いなので、周りに流されずにご自身でよく考えて選択することが大切でしょう。
ICL手術の適応症例とは?
ICL手術は以下のような症例に適しています。
近視や乱視が強い方に適している
ICL手術は近視や乱視が強い方に効果的です。度数が高いほど効果が期待できます。具体的に言うと、-6.0D以上の近視の方です。レーシックが受けられずに諦めていた強度の近視や乱視の方にとっては、朗報ですね。
角膜が薄い方にも適している
ICL手術は角膜が薄い方にも適しています。角膜の厚さに制限があるため、レーシック手術ができない方にとって選択肢となります。また、軽度円錐角膜の方でも受けることができるのもICLの素晴らしいところです。
年齢や性別に関係なく受けることができる
ICL手術は年齢や性別に関係なく受けることができます。ただし、ICLを受けることができない方も当然います。実際には診察を受けてみないと分かりませんが、以下に代表的な例を挙げさせていただきます。
- 1年以内に視力が大きく変動している方
- 妊娠中・授乳中の方
- 緑内障・白内障など目の病気がある方
- レンズを入れる角膜と水晶体の距離(前房深度)が極端に浅い方(緑内障などの危険性がある
ICLはレーシックに比べると幅広い方が受けることのできる手術ではありますが、誰もが受けることができる手術ではありません。上記に当てはまる方はもちろん、上記以外でも受けることができない場合もあります。まずは担当の医師にしっかりと確認することが必要です。
ICL手術の注意点とは?
ICL手術を考える際には以下の注意点に留意する必要があります。
手術後のアフターケアが必要
ICL手術後は経過観察が必要です。手術後の経過によっては追加の処置が必要となることもあります。手術を受けて視力が回復したから終わりではなく、医師の指示に従い、目を保護するための処置や目薬の使用などを適切に行うことが重要です。
術後は色々な制限があります。状態によって異なりますが、以下が大体の目安になります。
- シャワー:2日後から
- 洗髪:4日後から
- 洗顔:1週間後から
- 化粧・アイメイク:1週間後
- 運転:1週間後
- 運動:2週間後
- 飲酒:3週間後
これらはあくまで目安です。病院や医師によって日数は大きく異なります。必ず担当医の指示に従ってください。
定期的な眼科検診が重要
ICL手術を受けた後も定期的な眼科検診を受けることが重要です。視力の状態や眼の健康を確認するためにも、定期的な検診が必要です。
手術を受けて視力が回復したからと言って、全く検診を受けに行かない人もいるそうです。私には信じられませんが、結構いるそうです。何もなければ良いのですが、もしかしたら手術の影響でなにかしらの処置が必要になる場合もあります。早期発見が大切です。必要だから担当医も検診に来るように言う訳なので、必ず守りましょう。誰の為でもありません、あなたの為なのですから。
ICL手術のまとめ
ここまでICLについて色々と説明してきましたがいかがでしたか?この記事を読んでいただいているということは、きっとICL手術に興味を持っていたり、検討されている方だと思います。
ICL手術は、近視や乱視の矯正に効果的な手術だということに間違いありません。私も重度の近視と乱視ですが、目が弱くなかなかレーシックなどの手術に踏み切れないでいます。レーシックと比較するとICLは、角膜を削らないという点で安心感があります。
ICLは自然な視力回復が期待できる一方で、当然手術にはリスクや費用が伴います。ICLによって得られるメリットと、リスクや費用を天秤にかけて決めることになりますが、手術を受けるまで納得のいくまで色々な口コミや記事などを参考にした方がいいでしょう。
手術を受けるも受けないもあなたの自由です。後悔のない選択をして欲しいと思いますし、この記事が少なからず参考になったら幸いです。